Dental Pulp タイムス

  1. ホーム
  2. Dental Pulp タイムス
  3. 乳歯の中に隠された宝物(2)

乳歯の中に隠された宝物(2)

乳歯の中に隠された宝物(2)

山座 孝義
profile
九州大学歯学研究員 准教授・歯科技師・歯学博士
世界で初めて歯髄幹細胞の再生能力を発見した研究チームの1人。現在は九州大学にて、神経堤由来の歯髄幹細胞の特徴を元とした歯科ならびに全身の疾患に対する治療法を研究・開発。


【乳歯の中に隠された宝物(1)⇒】
今年も日本人がノーベル賞を受賞しましたね。7年前、iPS細胞の発見で、京都大学の山中伸弥教授がノーベル生理学医学賞を受賞されました。わずか4つの遺伝子を皮膚の細胞に導入するだけで、受精卵のように増え続け、色々な臓器をつくる細胞へ分化させることが成功したためでした。臓器を再生する夢の治療、「再生医療」がこのiPS細胞によって実現化する可能性があります。現在、視力を司る網膜の細胞やドーパミンをつくる神経細胞をiPS細胞を使って作り出し、加齢黄斑変性症やパーキンソン病という難病に移植治療する試みが進められています。

ところで、私たちの身体は一体何個の細胞からできていると思いますか?2013年にその答えが出ました。37兆個ということです。一つ一つ並べると地球を9周以上、ぐるぐる巻きできる長さとなるんです。この37兆個の細胞、最初は受精卵と呼ばれるたった1個の細胞から出発します。その後誰の力も借りずに、血液や脳、心臓、肺、肝臓など身体中のありとあらゆる臓器をつくる37兆個の細胞となるのです。

少し難しい話になりますが、「幹細胞」が特殊な細胞であるところは、体の中で永遠に生きていく「ちから」があること、そして色々な細胞へ分化する「ちから」があることです。例えば、血液をつくる幹細胞、「造血幹細胞」は、ヒトが亡くなる瞬間まで血液細胞を作り続けます。しかし生きている途中で、もしこの造血幹細胞が体の中から消えてなくなれば、血液細胞が作られなくなり、私たちはたちどころに生きてゆけなくなります。現在、この造血幹細胞を移植して白血病の治療が行われています。このように幹細胞をもちいれば、難病で苦しむ子たちの命を救うことができるのです。

ご存知の通り、私たちはおよそ生後半年で下顎乳切歯が生えてきます。その後2〜3歳までに乳歯が合計20本生え揃います。しかし、その後のアゴ(顎)の骨が急速に大きく発達するため、小さな乳歯では食べることが難しくなります。そこでおよそ5〜6歳から、12歳くらいの間に乳歯が抜け、永久歯に生え変わるわけです。この抜けた乳歯の歯髄に幹細胞が存在するのです。

抜けた乳歯の中に残っている歯髄をある酵素液で処理すると、細胞がバラバラになります。これをフラスコで培養すると、細胞の一部が一つ一つフラスコに付着し、その後その細胞が増えていきます。この時顕微鏡で観察すると、細長い形をした細胞が集団(コロニー)を形成しています。このコロニーを形成した細胞が乳歯幹細胞そのものです。

この乳歯幹細胞の性質を調べてみると、まずその増殖する「ちから」がすごい。実は、骨髄や脂肪組織の中にも乳歯幹細胞に似た幹細胞、骨髄間葉系幹細胞と脂肪幹細胞が存在します。これらの幹細胞と比べると3〜5倍くらい増殖する力があります。
乳歯幹細胞は、歯の象牙質をつくる象牙芽細胞や、骨をつくる骨芽細胞、軟骨をつくる軟骨細胞、脂肪組織をつくる脂肪細胞に分化します。くわえて、ドーパミンをつくる神経細胞やインスリンを分泌する膵島のB細胞、肝臓を構成する肝細胞、血管を裏打ちする血管内皮細胞にも分化する「ちから」があります。このことから、乳歯幹細胞を使って体の臓器をつくる試みも行われています。
面白いことに、乳歯幹細胞は炎症や免疫反応が生じている病変部や臓器に集まる「ちから」があります。そして、病変部の炎症反応や免疫反応を抑える優れた「ちから」が知られています。この「ちから」はiPS細胞や造血幹細胞にはないもので、アレルギーや自己免疫疾患、慢性炎症の治療にとても重要な働きすると考えられています。

現在、乳歯幹細胞を集め保管する「乳歯幹細胞バンク」が日本のみならず世界で行われています。また、このような乳歯幹細胞の「ちから」を利用して、難病を治療する「再生医療」への取り組みが積極的に進められています。乳歯幹細胞で夢の治療が実現化することを期待しています。
(つづく)

 


あわせて読みたい記事


再生医療・歯髄細胞バンク・献歯等、
詳しく知りたい方はお気軽にご相談ください
ご相談は無料です。